僕の旅の始まりを書くには、この出会いはどうしても外せない。
バイクのトラブルがあるなか、「こんなことがあるなら、まぁ我慢してもいいか」と思えたからだ。
僕が泊まった4人部屋の206号室には、愛すべき先客がいた。
そのうちの2名が、メルボルン滞在の2週間をほぼ一緒に過ごすことになった、ロリータとライアンだ。
今回は、そんなホステルでの出会いのお話。
ロリータとライアン
ロリータは、カナダ人の赤毛のソバージュのお姉さん。
ライアンは、アメリカ人のロングでマッチョで童顔のお兄さん。
2人は、すでにいろんな国を周ってきた旅のベテラン。
旅がまだ始まってもいない僕に、いろいろと良い刺激を与えてくれた。
たとえば、スペイン語の洗礼を受けたのもこのときだ。
「南米にも行きたいんだよね」
という話をすると、ロリータとライアンの2人でのスペイン語トークが炸裂した。
もう、ただひたすらにかっこいい。
旅人の必須スキルとでも言うように、流暢なスペイン語を披露してくれた。
こういうちょっとした体験でも、南米に行く気になっている僕には大きな刺激で、「やっぱり行くぞ」と僕を後押ししてくれる材料になった。
2人の旅のスタイルも、たくましくて、面白かった。
ライアン
ライアンの場合は、よくある話ではあるが、ホステルで軽い労働をすることで宿代を浮かせていた。
詳しくは聞いていないが、最低賃金の高いオーストラリアのこと、1日せいぜい2時間程度ではないだろうか。
トイレ掃除をとても嫌っていたのを未だに覚えている。
ここで、僕らの泊まっていた部屋は4人部屋だ。
4人部屋というのは、ホステルという安宿においては最高級に近い、良い部屋だ。
ランクの低い部屋だと8人部屋は当たり前、僕は最高で20人部屋にも泊まったことがある。
個人用のロッカーがあり、ベッド脇に荷物を置いても、他の人の邪魔にならない。
これが、バックパッカーにとっての、良い部屋だ。
そして、ライアンは、金を払っていないのに、なぜかその良い部屋に泊まることができている。
理由は単なる手違いや管理不足なのだが、僕らにとってはもう、ライアンの存在そのものがジョークだった。
たまにバイト仲間が部屋に来ては、「随分広いスタッフルームだな!!」とからかっていく。
そしてライアンは、不適な笑みでそいつらを追い返す。
「おまえらは狭い部屋で可愛そうだな!」
いや、ほんとならあんたもだよ(笑)
でも、そんな態度が可愛く見えてしまう、茶目っ気のある好人物なのだ。
まぁ、スタッフが広い部屋になぜか住めてしまっている状態というのは長続きするはずもなく、警告と共に彼は引越しさせられてしまった。

彼はルームキーを取り上げられ、そして彼が部屋に入るために、合言葉が作られた。
その合言葉は、スターウォーズのチューバッカの鳴き声。
「アォアォアォ~!」
が聞こえたら、同じ鳴き声を返して、ドアを開けてあげる。
ライアンは数時間、広い僕らの部屋で落ち着いて動画を編集したり、だべったりしていく。
なんだろうねこれ。誰にでもできることじゃないだろう。
コミュニケーション力のなせる業というか、こういうのも才能だろう。
ロリータ
ロリータはさらに逞しい女性だった。
心理療法士のような資格を持っている人で、僕が部屋に入ったばかりのころは「仕事を探してるの」と言っていた。
数日もすると、「良い仕事が見つかったのよ!」と、早速仕事をゲットしてきた。
聞くと、時給が1時間30ドルを超えるとか。
「ここの宿代が1時間で稼げちゃうなんて最高よね」なんて、ライアンに聞かせて良いセリフなんだろうかと心配になるくらいの、この生活力の違い。
でも、ライアンに対していやらしい態度なのかと言えば、そんなことは全くなかった。
むしろ、そういうことも遠慮なく言える、気の置けない関係がすでに作り上げられていた。
別に男女の関係になっているわけでもなく、彼らは誰とでもこうなんだろうと思う。
ロリータの方がライアンより年上なので、ロリータはなにかあると「あたしみたいな慰めてくれる人がいていいわね」なんて言う。
で、ライアンは「いやいや、俺があんたを癒してやっているんじゃん」と返す。
この応酬はほんとに何回も聞いた。もはや掛け合い漫才だ。
でも、彼らはマジなんだよなぁ。目が笑ってないし、「いやいや俺だよ」「あたしでしょう」がけっこう長い。
彼らのアイデンティティの大事な何かがかかっているのか、言葉遊びが度を越しているのか、僕にはわからない。
ただ僕に分かったのは、「仲がいいんだね」ということだけだった。
ロリータはずっと女一人で旅をしていた人で、悲惨な目に合ったこともある。
それでもその経験すら「仕事に活かせるからマイナスだけじゃない」と言っていて、本当に頭が下がる思いだった。
ロリータのインスタグラムは女性を励ますメッセージの投稿になっているので、興味があれば読んでみたら英語の勉強にもなるだろう。
居心地のよさ
日中はそれぞれ自分のしたいことをして、帰ってきたら3人でおしゃべりというのが日常になっていた。
僕が交通ルールのことを聞いたら、ロリータが「バイクってだめなのよね」と言い出して、僕とライアンで「体を傾けるだけじゃん!」なんてからかったり。
2人が行ったことのあるアジアの旅の話を聞かせてくれたり。
僕のバイクの話は、2人ともかなり盛り上がってくれた。
ロリータは都合が合ったので、荷物の運び出しなんかも手伝ってくれて、ハグで見送ってくれたりもした。
最後の方は、「第二の我が家みたいだね」なんて言っていたくらいだ。
まとめ
「相部屋の宿なんて」、と拒否感を持つ人もいるだろう、「もういい年だし」と居心地の良さを優先する人もいるだろう。
でも僕は、これも海外旅行の醍醐味だと思っている。
英語ができないならできないで、「話せなくてくやしい!!」という強烈なモチベーションにもなる。
時間とお金を使って海外に行くのなら、景色や食べ物だけじゃなくて、人にも触れてきたい。
もしそう思うなら、ホステルに泊まってみよう。本当に、おすすめ。
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