カラッカラに乾燥しているオーストラリア中央部。
僕の旅では、その暑さと水の少なさに苦労させられた。
日差しの厳しさは、木陰にいても、木漏れ日が当たる部分だけひりひりさせてくる。
乾燥具合は、ただ座っているだけで、肌や唇が乾いていく変化が感じられるほど。
しかし、地下には大量の水が眠っていた。
湧き水に沿って道ができた

こんなに乾いているオーストラリア中央部のOodnadatta Trackだったが、この道は古くはアボリジニの通商路、百年前は移民してきた白人の主要な交通網だった。
開拓をしていく冒険者、牛や羊の牧羊業者の輸送路、第二次大戦の当時は兵隊も、このルートで輸送された。
なぜか。
それは、湧き水があるからだ。
Trackにあった情報板を見てみよう。



僕がスタートしたMarreeの町が右手、Oodnadattaの町が左手にあり、湧き水を示すうずまきのマークがそれらの町をつないでいることがわかる。
この湧き水があったからこそ、アボリジニは他の部族と交易ができたし、白人開拓者も、南から北へと進んで行くことができた。
湧き水はどこから来た?
では、この水はどこから来たのだろうか。

(看板の説明はLake Eyre Basin (エア湖水盆)の説明なので、斜線の部分だ。)
それは、オーストラリア大陸の東のはじっこのGreat Dividing Rangeという山岳地帯に降った雨だ。
(Great Dividing Range=でっかい分割する地域)
雨が降ったところから、水が沸いてくるところまでどのくらいの距離があるかというと、だいたい1,200km。
これは、日本の本州の長さ。
青森のはじっこ大間岬から、山口の下関までの1,220kmが、ほぼおさまってしまう距離だ。
雨が湧き水として出てくるまでにかかる時間
距離もすごいが、水が通ってくるのにかかる時間がまたすごい。
ちょっと予想してみてほしい。
あなたは、どのくらいの時間がかかると思うだろうか。
東の山脈に雨が降って、それが地下を通って、オーストラリアの中央部に湧き出してくるまでの時間だ。

答えは、なんと200万年(にひゃくまんねん)の時間をかけて地下を潜って通ってくる。
なんていうスケールの大きさだろうか。
今沸いている水は、人間がまだアウストラロピテクスだったころに降った雨なのだ。
今降った雨が沸くころには、人間は何になっているだろうな。
この仕組みはいつできたのか
看板のこの部分を見てほしい。

お椀やお盆のような形をしているので、これを地下水盆(water basin)という。
お盆の底の部分は、オーストラリアが南極から分裂するときに、プレートの動きで東から西に圧迫されてつくられた。
これがだいたい1億年まえ。恐竜の時代だ。
お盆の中身は、水を通す砂の層と、水を通さない粘土の層でできている。
これらは、お盆ができてから、数百万年をかけてへこみの部分にたまっていった。
粘土が通り道のトンネルを作り、砂がそのトンネルの中にある。水はそこを通るのだ。
お盆の深さは数キロメートルにもなるそうで、深いところは大地の圧力がかかっている。
その圧力で、水の温度が100度まで上がっている場所もある。
また圧力のおかげで、掘れば水が噴き出してくる。
貯水量を琵琶湖で換算
地下には、65,000ギガリットルの水が眠っているらしい。
もう単位からしてよくわからない。ギガリットルって聞いたことないよ。
そこで、日本一大きい湖、琵琶湖で換算してみた。
琵琶湖の貯水量は275億トンだそうだ。
1ギガリットルは1,000,000キロリットルなので、百万トン。
65,000ギガリットルということはそれの65,000倍なので、650億トン。
つまり、琵琶湖2.3杯ぶんの水が、この地下に眠っている計算だ。
うーん、日本が何個も収まる広さの水盆なのに、琵琶湖2杯分しかないのか。
もっとものすごい倍率になるのかと思っていた。

これは、地下水が砂に染み込んでいる形で存在するからだろう。
砂や石砂利の、小さな小さな隙間に水がある。
琵琶湖を砂利で埋めたら水があふれてしまうのと一緒だ。
地下水でこの量というのは、とんでもないことなんだろう。
降水量を圧倒的に上回る揮発量
僕が通ったOodnadatta Track辺りに沸いた水は、北のAyre湖へ流れ込む。
しかしそれは、水が蒸発せずに湖までたどり着ければの話。
この水盆の地域の年間降水量は120mm。
日本は年間1700mmだというから、その少なさがよくわかる。
(ちなみに、世界で一番雨が少ないのはボリビアのアタカマ砂漠で、10mm。一番乾いているところでは、観測史上雨が一度も降っていない。エジプトは18mm。)
しかし、降る雨の量より、蒸発していく量が多い。
なんと年間3,500mmも蒸発してしまう。

僕がOodnadatta Trackにいたのは12月だから、これから暑くなろうという夏のはじめだ。
そりゃあ、水も無ければ生き物もいないという感想になるのも当たり前だ。
まとめ
オーストラリアの地表はとても乾いているが、地下には豊富な水が蓄えられている。
だから、雨が少なくても、人は地下水を頼りに生活してきた。
僕が訪れたMarreeはもとより、主要な街であるアリススプリングスや、地域の町はすべて、この湧き水のおかげでできあがった。
そもそも、スプリングスという名前が湧き水を示している。
名前には歴史が刻まれていて、このあたりの歴史は水により作り上げられてきたのだ。
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