Oodnadatta Track 前半

オーストラリア

前回の記事で、Marreeの町のアンにアドバイスをもらったことを書いた。

そのアドバイスに従い、2つあるウォーターバッグの片方を荷物の底のほうへしまい、タイヤの空気を抜いて、重心を下げて悪路の安定性を高める。

そして念願のOodnadatta Track(ウーナダッタ)に足を踏み入れる。

路面はそこまで悪くないが、タイヤが通らない部分には砂や砂利が積もっており、この積もり方が、600kmある道の場所により異なる。

だから、真っ直ぐで平らだからといって、あまり飛ばしていると危ない。

記憶が定かでないが、ここでは最高80kmくらいで走っていたように思う。

時速80kmだと危険を感じることもあったので、巡航速度は60kmくらいだろうか。

この路面なら、慣れた人なら100kmくらいは出すのかもしれない。

だが、写真奥のような微妙なへこみ部分には、深く砂が積もっていることもある。

風の作用か、それとも洪水が起きたときに、水が流れる場所に砂が溜まるのか。

時速100kmでそんな砂の深いところに突っ込んだら、転倒間違いなしだ。

見てのとおり、本当に何もない。

これがアウトバックというやつだろう。

木が生えていないので、日陰もない。

生えているのは、半分枯れた草か、小さな小さな多肉植物くらいだ。

それにしてもこの石と土の赤さが独特だ。

Oodnadatta Track全体がこう赤いわけでもないが、この辺りで食料も水も失くしたら、地獄にも見えるかもしれない。

国立公園 Flinders Ranges のページで少し触れたが、オーストラリアの中央部は、水の恵みが本当に少ない。

地図で湖となっている場所も、実際にはひび割れた地面でしかない。

ルートのすぐ上に湖があるのだけど、全く水があるように見えない。

(それでもMarreeにヨットクラブがあるんだから、水の有る無しはシーズンによるんだろう)

水が無いから、動物もいないし植物もない。

大きな木なんか、育つことはできない。

だから日陰がない。

日陰がないということは、休憩ができないということで、強いオーストラリアの日差しの下において、これは死活問題だ。

ふつう想定されることもないが、ここでは自分で日陰を作る装備が必要になる。

小休止のときには、折り畳み傘をさしたりしてみたが、軽量コンパクトなもので日傘でもないので、効果は焼け石に水だった。

大休止のときにはタープを張るのだが、硬く乾燥した地面にはペグが刺さらない。

僕の持っていたタープはペグを8本使うものだが、そんなにたくさん打ち込む体力もない。

休憩したいときは疲れているわけだから、体力を使うことはしたくないのは当然だ。

結局、太陽が真上に無いときはバイクの陰で小さくなって過ごしていた。

正午に日陰がほしいときは、タープの片側をバイクに結んだりして、労力を少なくしたりもした。

気温40度を超えることも当たり前という暑さは、このオフロードに限った話ではないが、この日陰の無さというのが一番過酷だったかもしれない。

そんな暑さにやられそうになりながら走っていると、なにやらモニュメントの並ぶ広場が見えてきた。

飛行機でできた門。

少し前に、ここでロックバンドがライブをやったらしい。

こんな広いところで、青く抜けた空の下でライブなんかやったら、すごく盛り上がりそう。

でも熱中症が怖いな。

こんなのもあった。

原子爆弾に Rust In Peace。

お墓に刻んであったり、ドラマやツイッターにもよく出てくるR.I.P.は、Rest In Peaceで、「安らかに眠れ」だが、それを文字っている。

Rust in peaceで、「平和のうちに錆びよ」くらいだろうか。

立派な博物館の中に飾られているのではなく、この何もない荒野に放置され、置き去りにされ、錆びて朽ち果てていく。

ここにあるからこそ、強くメッセージを打ち出しているような気がする。

素敵なモニュメントだ。

そのまま進むと、昔の駅かなにかの廃墟を発見。

こんな何もないところに駅?と思ったが、線路のメンテナンスのための工員の詰め所か何かなのようだ。

線路は、洪水や砂嵐、そして太陽の熱により壊れまたは歪み、定期的に修理が必要だったと書いてある。

線路が歪むほどの太陽の熱というのを、僕はくらっていたわけだ。

よくまぁ熱中症でぶっ倒れなかったものだと思う。

昔見た砂漠のドキュメンタリーの、”Don’t save water.” (水を節約するな)というセリフを覚えていたのがよかったのかもしれない。

脱水症状というものは、実は気づく前から始まっていて、喉が渇いたと思うころには症状はだいぶ進んでいる。

だから水分はこまめに取らなくてはいけない。

こうしてハイドレーションパックをタンク周りに付けておくことで、ちょっとした休憩時はもとより、信号待ちや、走りながらでも水を飲むことができる。

フルフェイスでも、ヘルメットを脱がずに水が飲める。

暑さのために、ヘルメットを脱ぐ動作ひとつも省きたい気持ちになっているので、これはいいアイデアだった。

ジャケットにハイドレーションパックを収納できるものもあるけど、着てるものが重いと疲れやすくなっちゃうからね。

あとは塩分をはじめとしたミネラルを、適切な浸透圧でとれれば完璧だ。

砂糖がいっぱいの浸透圧の高い飲み物は、熱中症対策にはあまりならないので注意が必要。

薄めたスポーツドリンクなんかなら、旅先でも手軽に用意できる。

(これから暑くなるので、これを読んで下さってるみなさんも熱中症には気をつけてください。)

こうして暑さにやられながら駅の廃墟にたどりついて、まだ明るかったがキャンプを始めた。

こんな荒野で、どこでテントを張ろうが自由だというもんだが、せっかくなら眺めのいい場所でキャンプしたい。

廃墟のわきでキャンプなんて、ちょっと乙だ。

明るいうちにテントの設営を終えたので、ゆっくりと夕日を楽しむことができた。

空が本当に広い。ここより空が広い場所なんてないんじゃないか。

月夜と夕焼けがひとつの視界に収まる。

イスにふんぞり返って、タバコを巻き、プレスで淹れたコーヒーや、スキットルで持ってきたウイスキーを飲む。

そして世界を楽しむ。

”気絶するほど 遠くまで来た 
見たこともない景色に 僕はクラクラさ”

という歌もあったっけな、などと思いながら。

気温も下がって、火照った頭と体も休まった。

何にもない場所だけど、それがいい。

こうして、たっぷりと荒野を満喫したのだった。

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